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「ビートルズが青春だった」って言うとおまえいったい何歳なんだとツッコミが入りそうですが、当然リアルタイムで体験したわけではなく、1973年生まれの自分にとってビートルズは完全に後追いであって、ビートルズ漬けだった20歳前後にはジョンレノンもとっくにこの世にいなかったわけで・・・。音楽に興味を持ち始めた10代の頃から、1960年代、70年代の音楽、今で言うところのビンテージロックを好んで聴いていたのですが、それはなんでかって言うと、1990年代の初期は、過去のロック遺産を採掘するように、各レコード会社で古いロックのアルバムを軒並みCD化、しかも2,000円以下の廉価盤でリイシューするという動きがあって、当時リアルタイムで世を席巻していたヒップホップやヘヴィロックのオラオラ感に馴染めなかった軟弱者にとっては素朴な古いルーツロックがお誂え向きだったのですね。ただ、リリース時期は同じなんだけど他のルーツロックに比べて東芝EMIから発売されていたビートルズの日本盤CDはちょっと高め。当時で3,200円だったかな。版権とか諸々ややこしい事情があったのでしょうが、新譜と変わらない値段で売られていたんですね。ちょうど関東で一人暮らしを始めた頃で、生活費を切り詰め、小銭を数えながらCDや本を買い漁っていた自分にとって1,200円程度の出費の差は意外に大きく、ビートルズのオリジナルアルバムを購入するのは、なんとなし後回しになっていました。

無論それまでビートルズの曲は聴いたことがないってわけじゃなく、高校時代はバンドでビートルズの曲のコピーなんかもしてたんですが、それも近所のホームセンターなんかで売ってるワゴン売りの安価な編集盤(ジャケが謎の風景とかのやつ)が参考音源で、所詮シングルの寄せ集め的なポピュラーな選曲ですから、その魅力の一端にしか触れていない。それでも、いずれは避けて通れぬビートルズ!ってんで、20歳くらいの時、奮起して全タイトル(ったって数枚なんですが)、、ぽつぽつ買い始めたんですね。プリーズプリーズミーから発売順に買い揃えるんですが、激動の60年代ポップカルチャーを象徴する鮮やかな変化と常にポピュラーでありながら奥の深い芸術性が刺激的で、ルーツロックを探求するというより現在進行形のバンドの新譜を買うようなワクワク感がありました。そんなビートルズの魅力にすっかりハマってしまった自分は、音源にとどまらず、評伝や映画などでその軌跡を深追いして、彼らの思想や立ち居振る舞いに触発されたり、ジョンレノンの命日にはなぜか黒ずくめの服で過ごすなどといったノイローゼ的な挙動など、要するに感受性豊かな時期に洗礼を受けちまったもんですから先述のように「ビートルズが青春」ってうそぶく次第。まあビートルズに限らず、全般そんな古きよき芸術作品でもって感性を育んでいた若き日々だったんですが。

そんなオールドスクールな音楽マニアであった自分は当時、相模原のオールディーズバーでバーテンのアルバイトをしていたんです。少しでも古き良き音楽のある職場で働きたくて。そこは毎日バンドの生演奏が入る店で、出演バンドは毎日入れ替わり、フィフティーズ系のカバーバンドが多くを占め、女子はポニーテール、男子はエルヴィス風リーゼントにエナメル靴っていうファッション。定番のツイストやチークタイムなどを織り交ぜたステージは良くも悪くも客を盛り上げるためのBGMであって、バンドマンも客も昭和のイケイケ風というか「昔ツッパってました」系のメンタリティでオルグされている職場ではありました。

そんな「いなたい」人たちが多い中で、たまにモッズスーツとマッシュルームカットでクールにキメたビートルズ専門のカバーバンドが出演してたんですね。明らかに浮いてましたけども。私もそのバーではどっか異色のスタッフであって、ツイストにもリーゼントにもほとんど関心がない野暮天。頑なに前髪は下ろしてましたし。それでもパーティーなんかがあるハレの日は、いつもリーゼントでキメてる先輩が本格的なピュアロカ風に整髪してくれたりしたんですが、多量のグリースとダイエースプレーでガチガチに固めるスタイリングにはカルチャーショックを受けましたね。ほいでそのバンドのボーカルのマッシュルームカットなんですが、ブリティッシュトラッド風というよりも、どちらかというとサイケでヤンチャな感じ。ブライアンジョーンズ風というか割と長めの。同時代でいうとストーンローゼズやインスパイラルカーペッツのようなマッドチェスターなヘアスタイルになんとなくピンと来るものがありました。ただ郷に入れば郷に従えの精神か、そのビートルズバンドも、こういう店では客のニーズに合わせて、初期の踊れるロックンロールナンバーや誰もが知っているヒット曲ばかりを演奏してました。

そのバーは楽屋がなく、1日数回のステージの合間にカウンターで休憩しているバンドのメンバーとスタッフが気軽に話したりもできたんです。自分はそのバンドが休憩中に、若気の至り、不届きにも自分はビートルズフリークなんだけども、普段みなさんが演奏してる分かりやすいナンバーよりも、中期の難解でヤバイ感じ、ウォラスなんかのアシッド由来の曲が好きなんだって話しをしたんですね。そしたらボーカルの兄ちゃん、バディーホリー風の黒縁メガネの奥をキラリと光らせ、俺も実際その辺が好みなんだが、こういう場では一般向けのわかりやすく誰もが知ってる曲をやるのがマナーなんだぜって、世間知らずのガキを諭すような大人な対応ではありました。その日は、まあそんなもんなんだろうな、そらそうだわなって納得したんですが、ある日。

これは彼らの出番に限らず、平日の店ではよくあることだったんですが、ステージの時間が迫っても、客席はゼロ。ただし演奏の途中で客が入って来るなんてこともあるし、外に漏れる演奏の音に誘われてご来店ってこともあるじゃない?そもそも客がゼロでもギャラは発生してたみたいなんで、バンドはなんだかんだステージに立って演奏しなきゃならない。それもまあ音合わせというかちょっとした練習も兼ねてユルユルとやってるんです(オーナー不在時はね)。バイトも平日や早い時間は一人シフトで、その日も自分一人が店を切り盛りするという按配式で。1回目のステージ、適当に照明の具合なんかを調節しながらステージが始まるのを待っていたんですが、なんとなくいつもと違う不穏なムード。というのも彼らの選曲がいわゆる客ウケするメジャーな曲が一切なく、客がいるときには積極的に披露しない、中期以降のディープでサイケデリックな曲ばっかり立て続けにブチかましてきたんですね。前述の I am the Walrus、Lucy in the Sky with Diamondsとかね。無論聴いてるのは平日ワンオペバイトの俺一人。

結局30分のステージはそんなマニアックな曲のみで終了、幸いなことに客は一人も訪れず、その演奏を一人で満喫しちゃったんだな。最後の曲が終わったときにちょっとこちらを一瞥し、俺たち渋いべ?ってな視線をボーカルのマッシュルームがよこした時は、変にこそばゆく、サブイボがたちましたが、このバーでアルバイトして、もっとも嬉しかった思い出の一つ。ビートルズは初期の明快なロックナンバーも大好きですなんですが、4人がスタジオワークに没頭していたラバーソウル以降のアルバムは自分にとってすごく特別で。若い子にロックってなにから聴いたらいいですかって聞かれたら、ビートルズのオリジナルアルバムを時代順にコンプリートすりゃいいよってアドバイスするんですが、今はAmazonプライムなんかのサブスクで気軽に聴けるんだよなー。3,200円の壁に悩んでいた時代が懐かしい。ただロックって音源だけでなく、歌詞・アートワーク・時代背景なんかも加味して複合的に楽しむことで奥行を感じられるし、そういったアプローチの仕方に先鞭つけたのも彼らなんですよね。ロックに限らず、表現ってなんでもそうだと思うんだけど、枝葉があちこちに伸びて複雑になるほどそれを紐解く楽しみができて面白いんですけどね。

最近は2歳の娘がビートルズの曲で踊るようになったんで、一緒にイエローサブマリンのアニメ観てるんですが、興奮して騒いでるのは父親だけで子どもはまだアンパンマンのほうが好きみたい。本格的なビートルズの洗礼はまだまだ先っすかね。

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