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昭和カラー

個人の色彩感覚というのは時代によって変節があるかと存じますが、絵描きである自分にとって、これまでの人生、どのあたりが節目だったのかと考えたとき思い起こすのは、昭和50年代、日本のプロ野球チームすなわち12球団の選択肢の中から日本ハムファイターズをチョイスしたとき。これがひとつのエポックだったような気がするのでありまして。同世代にはおわかりいただけると思うんですが、昭和生まれのこどもたちは日頃おのおの贔屓の野球チームの帽子を被ることで個性を主張し、大袈裟に言えばそこでひとつの自我に目覚めるわけなんですが、当時はその対象となる各球団も住み分けがうまくできていて、チームカラー、シンボルマークなど、今よりもコントラストが際立ち、ユニークだった気がします。たとえばライオンズは目の醒めるような青に手塚治虫のジャングル大帝が刺繍されていたし、バファローズの帽子には岡本太郎デザインの牛の図案が採用されるなど、キャラ立ちにもケレン味があり、多少なりとも子供達のウケを気にしていたと思います。特にパ・リーグの球団は特撮戦隊モノにも通じるメリハリが効いていましたね。もっとも人気だったのはメジャー球団というか強豪チーム、ジャイアンツやライオンズ、タイガーズの帽子でしょうか。そんな定番があるなかで、Bクラス常連のファイターズを選んだのは近所でも自分くらい。ハムやソーセージは無論好物でしたが、特に好きな選手もいなかったのに何故そうなったのか。それは子供ながらの判官贔屓、あるいは他人と同じであることを潔しとせず、常に独特であることを求める天邪鬼な気質によるところもあるでしょうが、なにより当時のチームカラーである「オレンジ色」に惹かれたというのが大きい。オレンジといっても、秋冬のコーディネートにも合わせやすい柿渋寄りのくすんだトーンではなくて、わりと彩度高めの柑橘系直球オレンジ、いわゆるビタミンカラーってやつですな。生真面目にも同系の明るいレモンイエローを挿し色に持ってくるなど、全体的にハイテンションなカラーリングでした。世界でも類を見ないであろう、その活発&奇抜な色使いは小学生の私を高揚させるには十分のインパクトだったと言えます。はっきり言ってこの配色が似合う人はなかなかおりません。たとえば当時、ベテランの江夏豊が抑えの切り札だったのですが、そのダーティーな風貌に対してあまりにヘルシーすぎるユニフォームはどうみても不釣り合いであり、その佇まいは子供心に早くも倒錯的な哀愁(ペーソス)を芽生えさせ、今に至るメランコリックな世界観への引き金になった、と言えなくもなく。そんな体験もひっくるめて、今の自分の作風はこの一種異形なプロ野球チームに魅かれたことがひとつのターニングポイントのような気がするわけです。実際、彩色においてオレンジや黄色は今や自分にとってはキーカラー、もっとも馴染みやすく、色面構成においてとかく巧妙に扱うことができる色ではあります。

もうひとつ、色と線の関係についてなんですが、これまた幼少時の感覚が、現在の画風に影響することがありまして。それは漫画の着彩についての持論なんですが。昭和50年代のコミック雑誌全盛期、ご多分に漏れず自分も熱心に漫画本を愛読していたのですが、どうも連載漫画の巻頭カラーや単行本のカラー表紙ってのに馴染まない感覚がありまして。ご承知のとおり、今でも日本の漫画って基本黒の単色で描かれているんですが、当時は上記のような特殊なカラーページの場合、着彩に水彩絵具もしくはカラーインキなどを用いるのが主流でした。おもにそれら画材の特性によるところが大きいのですが、おのずと色の印象がソフトで淡いものになるんですね。そりゃ漫画ですからペンによる黒の主線が情報として強調すべき最優先で、色は所詮それらを補完するものでしかない。これは個人の主観ですが、線の見せどころを担保するあまり、色づけが遠慮がちになり、絵として窮屈になってるような感じがしたんですね。かく言う自分もわりと物の輪郭は強調する画風ではあるのですが、漫画のような元の線画に依拠することのない、すなわちペインティングスタイルが性に合っていたんだと思います。ドローイングに自信がないというのもありますがー。まあそもそも漫画に関しては忸怩たる思いもあるんだな。それこそ幼少時、Gペンなどの道具を上手く使いこなせなくて何度も挫折したトラウマがありまして。漫画家入門的な書籍も買いましたが、まず必携とされた専用の道具を揃えることに怖気づいてしまった。ケント紙、インク壺、カラス 口などなど。近所の文具屋でも売ってないし、手入れとか面倒くさそうだし。お仕着せのセオリーやマニュアルってのは取っ掛かりとしては有効ですが、自分にとってはそれがちょっとしたハードルでした。

話は戻りますが、もともと日本ハムは後楽園球場を本拠地とする在京球団だったのですが、15年ほど前より奇しくも私の地元・北海道のフランチャイズ球団になりました。当時は夢にも思わなかったですけども。今やユニフォームは無難なデザインに変わってしまい、自分も野球観戦には関心がなくなり、大人なんでオレンジの野球帽などで無闇に個性を主張することもありません。でもたまに、僕ら世代向けのファンサービスなのか、当時の古いユニフォームを復刻して公式戦を行ってるときがありますね。あれニュースなんかで見かけるとテンションが上がります。懐かしさも当然ありますが、それとは別に、時代に合わせてスマートに洗練されてきたプロ野球のユニフォームも僕らが子供の頃はこんなにゴツくて(ダサくて)個性的だったんだぜっていう、歪んだ優越感でしょうか。若い選手たちの研ぎ澄まされたアスリート体型と昭和の鈍重なデザインがマッチしない、時代錯誤な魅力。でもこりゃ不服な選手もいるだろうなーって想像すると、往時の江夏豊の悲哀がオーバーラップして、ついシミジミしちゃいます。改めて見ると南海ホークスのグリーンとかも極端に昭和な色ですよ。各球団、ユニフォームの縦縞も全般的に極道テイストで威勢がよいし、チーム名のフォントだってウェイト強めで伸び伸びしてる。レトロといえば聞こえが良いが、デザインの背景にあるターゲットやコンセプトが一様に前時代的。それでもその野暮ったくも男臭いデザインが愛おしいのだな。特にバファローズのロゴマークは今みてもクールでカッコいいと思う。さすが岡本太郎、時代を超越しております。

相変わらずノスタルジックな昔話となりましたが、歳を重ねるにつれ頭の中のパレットもお行儀が良くなりつつあるんで、ここいらでちょっと追憶の昭和カラー、バックトゥーザルーツで活性化したいと思うています。ある種の幼児性は創作には欠かせませんから。そういえば野球帽の前頭部内側にあった白いメッシュの日除け。あれ一度も使ったことないかもな。

2020年12月
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